2010年5月26日水曜日

小布施 まちづくりの奇跡

「小布施 まちづくりの奇跡」 川向正人著(新潮新書)

毎年120万人の観光客が訪れる長野県小布施町。この小さなまちの何に、人々は惹きつけられるのか-。そのヒントは、「集計」というまちづくりの手法にあった。伝統的な町並みに固執しすぎない。とはいえ、まちの歴史をまったく無視した再開発でもない。いまあるもの、そこに暮らす人々の思いを大切にしながら、少しずつ景観を修復して、まちをつくってゆく。奇跡ともいわれる小布施流まちづくりを内側から描き出す。

この本を読みました。
長野県小布施町のまちづくりを書いたものです。小布施の町民の皆さんと宮本忠長氏(その後日本建築士会連合会会長)の出会いと、まちづくりの哲学に感動しました。

「景観の修復でまちはよみがえる」
この「景観の修復」というキーワードが語られています。
「歴史を大切に、だが現代生活を犠牲にしない。」
景観保存ではなく、景観修復という考え方です。この考え方が「町並み保存」とは決定的に違うのです。

町並み保存では、特徴的な形態が文化財としての指定あるいは選定の重要な根拠になるので、際立てられ、アピールされる。みずからの価値をあまりに饒舌に語ろうとする建築が並ぶので、保存された町並みを歩くと「疲れる」という人も少なくない。

表通りを歩いても、どこかの路地に入っても、町並みの特徴を陳列する展示空間を歩いているようで奥行きがない。ほっと一息つきたいと思っても、人が静かに抱かれるよな奥深い懐空間が無いのである。

小布施の町並み集計事業が目指したのは、この奥深い懐のような空間の創出であって、今日のまちづくりでも変わっていない。

この考え方に触れて、私は大変感銘を受けました。そしてこれらの景観の修復を一時的に行政に頼らずに、皆でまちを考えて、作り上げ、守っている姿勢が良く理解できました。
行政に頼らない理由を以下に述べています。

一つは、各自が自立する道を探って、行政に財政支援を期待しないこと。行政の助成金には必ず限度があって恒久的に続くものではないので、事業の成果を子々孫々まで残そうとすれば、経済的にも自立すべきだと考えたからである。
二つ目は、行政はクレームに弱く、安全策をとろうとして身近なところに手本を求めること。しかし、二番煎じでは、苦労も喜びも半分。喜びがなければ、運動は継続しない。

行政に頼らないと言っても、町長の指導力と情熱はどれほどのものが有ったかは、しっかり書かれています。この町長のリーダーシップにも敬意を表します。

金銭の授受をともなわない交換という方法を採用することで、新たな経済的負担を生じさせない。わざわざ評価手数料を支払って第三者に地価を決めてもらうこともしなかった。地価の差をいいはじめると、敷地の再編成そのものがストップするかもしれない。面子や小さな損得勘定で計画を頓挫させないために、当事者同士が話しあい納得して土地を交換する方法を選んだのである。

毎日のように議論を重ね、個人的損得を越えて、町を良くする。そうすれば個人も生きてくるのですね。(土地家屋調査士会もそんな気持ちでやっていますが)
そして「建物と建物の間はみんなのもの」といってオープンガーデンして、個人の敷地内を観光客でも自由に出入りできる空間にしているようです。間を楽しむのです。そして、そこにまちの奥行きが出るのですね。

実際仕事で毎日のように、境界争い等の個人の利害対立の話をお聞きしていますと、このような話をお聞きすると大変嬉しいものです。

私は土地家屋調査士以外に土地区画整理士という資格でもまちづくりに参加しておりました。しかし役割はいつも基盤整備ばかりです。「文化を伴わないまちづくりでは、まちづくりとは言えない。」とずっと思ってモヤモヤしていました。この本で自分の考えを整理していただいた気がしています。

小布施は、まだ行ったことのない町ですが、是非訪問して、実際に歩き回りたいと思いました。
この本は、時間があれば皆さんも一度読んでみて下さい。