2020年5月26日火曜日

事務所の事業承継をしてもらえる人


私は調査士事務所に補助者として7年勤務し、今年その先生と調査士法人を設立し、現在役員として勤務しております。その先生は将来私に事業承継するつもりです。
私は元々独立志望でしたが、いい環境を整えてもらっているので、特に不満はございません。

昨年、Kさんからこんなメールをいただきました。開業ガイダンスでも本人に直接アドバイスしましたが、先日同じ状況の別の方からご相談をいただきましたので、この点についてこのブログでも、もう少しお伝えしたいと思います。

私は「本当の実力」が付けば、営業しなくても仕事は来ると言っています。
ただし、自分で独立開業してから、その実力が世間に知られるまでにはそれなりの時間がかかります。
だから、今勤めている事務所の事業承継ができるのなら、そのタイムラグが縮められるので、とてもありがたい話だと思います。

一方、私がいつも言っているように「お客様は事務所につくのではありません。人につく」ことは忘れてはいけません。
事務所を承継してもらっただけでは、業務の最初のきっかけはできるかもしれないけれど、お客様が定着するかどうかは分かりません。
「前の先生は良かったけれど、今度の先生はちょっと…」ということをよく聞きます。

補助者が勘違いしているのは「本当の実力」の意味です。
登記手続きや測量ができただけで「自分には実力がある」と思い込んでいることだとすれば、とても怖いことです。それは登記事務です。
我々専門家の一番の実力とは、お客様の相談や悩みに総合的に答えて、解決できることでしょう。お客様は、その資格者の人格を含めた専門家としての総合力に対して相談に来ます。
お客様の悩みを分析して、法的に、経済的に整理して、各種解決法を考えます。
そしてその先に各種の手続きとして、各士業の業務に落とし込みます。
お客様は、基本的に手続きだけ頼みに来るのではありません。

登記手続や測量技術を身に付けるには、頑張って練習すれば、長い時間はかかりません。
しかし補助者を何年やっても、意識をしてトレーニングをしていないと、お客様の相談に総合的に答える能力は身に付きません。

「事務所を君に承継させたい」という言葉に単純に安心してはいけません。
その事務所を承継する前に、お客様の相談に対応する先生の言葉をできるだけ聞いて、その中に出てくる知らない知識や言い回しをチェックして、少しでも幅広い知識を身に付けておく必要があります。
また、できるだけ分かりやすい話し方もトレーニングする必要があります。
そしてお客様が先生のどの部分に共鳴してこの事務所に来ているのかを考えてください。
それらの総合力が「本当の実力」です。

これは親が土地家屋調査士の2代目でも同じことです。
事業承継者であっても、実の息子、娘であっても、所詮事務所内部の問題です。
そのときに、必ずお客様が次の世代に移行するわけではありません。
土地家屋調査士は、実力の世界の専門家ですから。