2010年9月12日日曜日

落語「代書屋」

先日「代書屋」の話題を書きましたが、私落語が大好きです。
東京や大阪の出張で、少し時間の調整が必要なときはフラッと寄席にはいることもありますし、私のiPadの中にもかなりの数の落語が入っています。

この「代書屋」は生で聞いたことはありませんが、テレビやCDで何度も聞いています。
この噺を書いたのは桂米団治で、昭和14年頃だったようです。ですからこの噺は上方落語に噺手が多いですね。きっちりと演じた米朝、天衣無縫の枝雀等々、皆なかなか味わいがあります。

桂米団治は、本当に一時「代書屋」をやっていたようです。弟子の桂米朝によると次のような紹介が有ります。

 この「代書」といぅ噺は自分の体験を、いっ時、噺家やめて代書屋をやってたんです。
『上方はなし(kamigata-banashi)』てな雑誌を出すときに一生懸命になりまして「なんかこの時間の融通の利く、落語の仕事があったら行けるといぅよぉな商売ないか」ちゅうて。
 その時分の代書屋、今のよぉに難しぃもんやございません。国家試験やなんて、あんな大層なものはなかった。株を買えばなれましたんでね。で、やるんですけど、にわか勉強でやるさかいに通りまへんねやなぁ。
 区役所の窓口で「これ、違うやないか」「さよか」ちゅうて、書き直してもろて「また違うやないか」「あぁさよかさよか……」また書き直してもろて。
 「また違うがな、どこの代書屋へ頼んだんや?」「あそこの中濱や」「あんなとこ行ったらあかん、あんなとこ」区役所がよぉ知ってるといぅよぉな面白い人でございました。


『窓口で「これ、違うやないか」「さよか」ちゅうて、書き直してもろて「また違うやないか」「あぁさよかさよか……」また書き直してもろて。』耳が痛くないですか?

誰がやっても「代書屋」の枕は、陰気で偉そうで取り付きにくい代書屋を語ります。これが、いまだに「先生」と呼ばれる部分ですね。
以下は米朝の枕の中の最後の部分です。本題に入る直前の部分で羽織を正に脱ぐところですね。

 「儲かった日も代書屋の同じ顔」といぅのは、わたしの師匠の米団治の作でございます「割り印で代書罫紙に箔を付け」なんてな作もあるんですが、うまいこと言ぅたもんですなぁ。ホンにあの代書屋はんちゅうのは「今日は儲かったさかい」ちゅうて嬉っそぉな顔してニコニコと店番してるよぉなことはあんまりないんで、たいがい不精髭生やして陰気な顔してね。
 そこらに置いてあるもんでも、たいがい古びて錆び付いたよぉな文鎮やとか、後ろには大正時代のホコリ被った六法全書なんか並んどりましてね、でこぉ、暇なときにはコヨリを作ったりね、あんまり景気のえぇ商売やおまへん。

 この陰気そうに見せるのが、代書屋の権威付けだったのでしょう。ここに、上方で言う「ケッタイなもん」が履歴書の代書を依頼に来るのです。あまりにもケッタイなので、代書屋の権威なんか飛んでしまうところに、笑いが有る噺です。

現代の代書人の皆さん、時間のあるときに一度聞いてみませんか。