ここのところの「代書屋」繋がりで、思い出したのが、この本、「代筆屋」辻仁成著です。2004年の初版で読みました。
代書ではなく代筆となると、他人に代わり手紙を書く仕事ですね。
吉祥寺駅から井の頭公園へと突き抜ける路地、カフェ・レオナルドで代筆屋をやる小説家と、彼に代筆された手紙の物語です。
「代筆屋」によると、手紙については以下のように語られています。
それにしても手紙と言うものは不思議な伝達手段である。書いている人間の気持は必ずといっていいほど文面に出る。心配もしていないのに、心配を押し売りするような手紙を書いてはいけない。
そのような気持は封を開いた瞬間に、真っ先に相手に届いてしまう。それが手紙の一番に恐ろしいところと言えよう。
愛している気持は届くかもしれないが、同時にその幼稚さや、愛の浅さや、性格の悪さまでもが相手に届いてしまう。
手紙と言うものは、人間の心を映す鏡のような存在でもある。
それに続いて、代筆の心構えを書いています。
代筆を勘づかれてはまずいので、ーもちろん巧すぎてもいけないが、だからといって代筆を引き受けた以上、それは相手の心を動かすものでなければならず、書く時は、さりげないがキラリと光るものを心掛けた。
依頼者の環境を理解し、同時に手紙を受け取る人の気持になって〜〜
この本は、名前も知らない人への恋文、別れた恋人へ「より」を戻すための手紙、老人の遺書、等々10通のオムニバスです。
この設定で自分が代筆屋なら手紙をどう書くのだろうかと、当時代筆してみた事を思い出しました。もちろん、ここには書きませんが。
携帯メールの時代だからこそ、私、今でもたまに万年筆で手紙を書いています。皆さんも、気に入った便せんに気に入った筆記具で、手紙を書いてみませんか。
同じ人間が書いているのに、文章が変わるから不思議です。