この映画、実は気が進みませんでした。
児童虐待、認知症独居老人、学級崩壊など、重いテーマをわざわざ掘り起こして突きつける映画であろうと思い、観に行くには躊躇していました。
いつも書くように、私の好きな映画は「あっけらかんと楽しい」のが基本です。
映画は2時間程度で、現実からまったく別の世界に連れて行ってくれるから、それが良いのです。
わざわざお金を払って暗い気持ちで帰るのは嫌だと思っています。
しかし「この映画は良い」と勧めてくれる友人がいました。
結局騙されるのを覚悟で、映画「きみはいい子」を観ました。
岡野(高良健吾)は、桜ヶ丘小学校4年2組を受けもつ新米教師。まじめだが優柔不断で、問題に真っ正面から向き合えない性格ゆえか、児童たちはなかなか岡野の言うことをきいてくれず、恋人との仲もあいまいだ。
雅美(尾野真千子)は、夫が海外に単身赴任中のため3歳の娘・あやねとふたり暮らし。ママ友らに見せる笑顔の陰で、雅美は自宅でたびたびあやねに手をあげ、自身も幼い頃親に暴力を振るわれていた過去をもっている。
あきこ(喜多道枝)は、小学校へと続く坂道の家にひとりで暮らす老人。買い物に行ったスーパーでお金を払わずに店を出たことを店員の櫻井(富田靖子)にとがめられ、認知症が始まったのかと不安な日々をすごしている。
とあるひとつの町で、それぞれに暮らす彼らはさまざまな局面で交差しながら、思いがけない「出会い」と「気づき」によって、新たな一歩を踏み出すことになる―。
(公式HPより)
結論、すごく良かったです。
まず役者が脇役も含めて、すべて存在感と演技力が素晴らしかったです。
高良健吾の「真面目なんだけど何も考えてない感じの不思議な雰囲気」が良く、久しぶりに「横道世之介」の好演を思い出しました。やはり彼は大河ドラマの高杉晋作役よりも、こんな役がとても良いです。
尾野真千子の「内面に少しずつ澱んだ水がたまってくる感じ」の演技も迫真に迫っていました。今更ながら良い女優と感じました。
池脇千鶴の「はなちゃんママの平凡さにおける存在感」は素晴らしく、私は一番気に入りました。彼女だからあのクライマックスのギャップが説得力を持つのでしょう。
そして喜多道枝の、認知症の老人演技もさすがにベテランの力を見せています。この役でとても大切な「品良く育った娘さんがそのまま歳を重ねて認知症になった」という雰囲気をしっかり出しています。
もちろん富田靖子や高橋和也など他にも主役級の良い役者が揃っています。
また素晴らしいのは子どもたちです。
子役達の演技力なのか、監督の演出能力なのか、とにかく自然で説得力があります。
宿題の報告をする子どもたちを、そこだけドキュメンタリー的に撮影した部分などは、演技としては特に自然で、本当に宿題をやってもらった本当の報告かも知れないと思うくらいでした。
特筆すべきは自閉症の子を演じた子役です。
加部亜門君ですか。知りませんでした。
あれが演技だと言うのですからすごい演技でした。
どちらにしても、あの自然に学級崩壊に向かうクラスを見て、つくづく学校の教師にならなくて良かったと思いました。(私教員免許を持っているんですw)
この映画が取り扱う問題は、児童虐待、認知症独居老人、モンスターペアレント、学級崩壊、自閉症、公園のママ友....
確かに皆現代的で重いテーマです。
やはり最初の30分程、重くて辛くて、正直観に来なければ良かったと思いました。
しかし、引き込まれて席を立つことはできません。
観ていると最初意味の分からなかったシーンがだんだん繋がってきます。
最後には、登場人物達がこれらの思いテーマを抱えながらも温かい救われた気持ちになります。
そこがとても良くできています。
そして、その演出があざとくないんです。
この話しなら、いくらでも、良い話、感動する話に持って行きそうなところを、ギリギリでセーブしてまとめています。
監督のセンスなんでしょう。
私は好きです。
「抱きしめられたい。子どもだって。おとなだって。」
だからこの言葉がストンと心に入ります。
観客も映画館を出るときは、重いテーマだけど重さとは別の感情、少なくても暗くないホッとした感情になるはずです。
仙台では24日で上映終了しました。
全国地域によってはこれから上映のところも有るようですが、もっと早く観て、もっと早く紹介すべきだったと思いました。
この書き込みに興味が湧いたらレンタルでも構わないと思いますので観てください。
ちなみに映画が良かったので原作本も読みました。
この原作についても、また感想を書きたくなっています。