2012年7月5日木曜日

要介護探偵の事件簿

先日読んだ「さよならドビュッシー」の作者中山七里のスピンオフ作品です。
設定が凄いです。
なにしろ前作「さよならドビュッシー」の数年前を舞台に、「さよなら」で早めに死んでしまうキャラの濃い「おじいちゃん」、ヒロインの祖父香月玄太郎を主人公にしてしまう作品です。

この本は短編集で、要介護老人の香月玄太郎とその介護者綴喜みち子が活躍するミステリーです。まあこの老人、一代で財を築いた名証2部上場の会社の社長であり、筋が通っていなければ相手が誰でも罵倒するキャラで、足が不自由なだけで要介護とは言っても、まったく可哀想なタイプではありません。むしろ周りの人間が皆可哀想になってしまう程怒鳴り散らすのですから。
彼は、沈思黙考の安楽椅子探偵ではなく、車椅子探偵ですから、密室殺人の現場等にどんどん行ってしまうのです。

なんで探偵なんかって?本人は探偵をするつもりは無いのです。
自分の会社の分譲不動産で密室殺人が起こるのです。早く解決しないと残っている周りの分譲地が売れなくなるのですが、警察が頼りない。そこで自分が動き出すということになります。警察の上部にも顔が利くので、怖いものなしで現場に入って行きます。

この短編集の魅力は、もちろんミステリーの面白さではあるのですが、一番はこの香月玄太郎と綴喜みち子のキャラクターを楽しむ事だと思います。
そして前作を先に読んでいる人だけ分かる、フフッと思えるサービスもあります。

読み進めて行くうちに、どんどん香月玄太郎のファンになってしまいます。
もしこの短編が先に書かれたら、「さよならドビュッシー」で香月玄太郎を殺す事はできなかったかもしれないと思える程、生き生きと書かれています。

私にとっては、ミステリーとして前作程の衝撃は無かったですが、小説としては十分面白いと思いますし、このキャラクター設定は、サスペンスドラマのシリーズ物に十分なりそうな実力を持った設定だと思います。中山七里は力のある作家ですね。

またこの短編の各々のタイトルは、次のとおりです。

要介護探偵の冒険
要介護探偵の生還
要介護探偵の快走
要介護探偵と四つの署名
要介護探偵最後の挨拶

これだけでも、シャーロッキアンである私に対する挑戦で、読むしか無いでしょう。