2016年4月11日月曜日

一番難しかった研修会

私は過去20年程、様々なリクエストに応じて、様々な科目の講師をしてきました。
講師の依頼については、日程の重複以外では断ったことはありません。
リクエストいただく内容なら、大抵の講義はできると思っていますし、何時間でもネタは大丈夫という自信もありました。

しかし、今年の1月に担当した研修は初めての試みであり、とても難しいものでした。
日本司法書士会連合会のe-ラーニング研修で「区画整理事業に伴う登記実務」というテーマをいただきました。
区画整理法の研修については、過去、各地の土地家屋調査士会でも司法書士会でも所轄官庁でも講師を担当させていただいておりますので、今回も受講者に合わせてフォーカスを変える必要がありますが、まあ研修の内容には問題がないと思って受託しました。

難しかったのは研修の方法でした。
今回の研修はe-ラーニングによるものです。
全国の司法書士の皆さんがネットで研修するものです。
つまり、講師が事前にカメラに向かって講義するものを収録する方法で行います。
講師の前にはカメラ以外誰もいないし、スライドもアニメーション効果は禁止であり、事前に提出した読み原稿を読むだけでアドリブは禁止のものでした。

この研修方法が、私にはとても難しく辛いものでした。
そして、この制限の中で講師をしてみて初めて自分の研修スタイルに気がつきました。
私は、研修会では常にライブ感を重視しています。
以前にも書いたように研修は受講者の「理解」だけではダメで、その先の「共感」まで伝えないと効果がないと思っています。

だから、研修会講師を受託すると、その研修会開催地域の実情や考え方を調べます。
受講者に「知識」を渡して「理解」していただくだけなら、そこまでしなくても良いでしょう。しかし「共感」まで求めるなら、実情や考え方などを調べるべきです。
その上で、半月かけてスライドを練っていきます。
その段階で95%程度まで仕上げます。
残りの5%は、研修会直前の主催者との打合せや会話でスライドを入れ替えて埋めます。
そのようにして100%まで仕上げたスライドを持って研修会に臨みます。
読み原稿を書いたことはありません。
予めの原稿は「生きた言葉」にならないからです。会場の反応を見ながら、説明手順を変えたり比喩を加えたりしながら、自分の言葉で話すから伝わるのです。
当日のライブ感を加えて120%の研修を目指しています。

ところが、今回の研修収録は、そんないつもの方法とまったく違った条件だったので、とても難しかったです。
もちろん、今回の研修内容について責任を持たなければならない日本司法書士会連合会としては、当然の選択だと思います。まったく正しい選択です。
しかし、受講者の反応が見えないのに、1ヶ月以上前に原稿を固めて、当日のアドリブは禁止という研修方法は、講師としては(少なくても私にとっては)とても辛いものでした。

普段は身振り手振りで講師をしているので、今回は手をどこに置くか困ったり、アナウンスの訓練も受けていない私がどのような抑揚でお話しすれば良いのか見当がつかず、ただただ原稿を読むという方法でどこまで研修効果があるのか、不安なまま終わりました。

今まで放送大学などの収録講義をテレビで受講して、講師にもっと表現力が無いのかと失礼なことを考えながら見ていたことを申し訳なく思っています。
事前収録による講義は、とても難しいことだと理解しました。

しかし、たくさんの受講者に対して短期で研修するためには、e−ラーニングはとても重要な方法ですし、日本土地家屋調査士会連合会でも同様に開催しています。
このような制限の中でも「共感」を得られるような原稿の内容と表現力の研究も、今後の講師には必要なのだと実感しました。
私にも新たな課題を与えられたような気がします。

司法書士の方は機会があったらご覧ください。
内容は役に立つと思います。
そこでは、普段と違う鈴木が居心地が悪そうに講義しています。