2015年12月9日水曜日

黄金のアデーレ

「黄金のアデーレ 名画の帰還」



友人が良かったと言ったので観に行きましたが、実はあまり期待しないで行きました。
「おそらくこんな感じの映画だろう」と事前に決めつけていましたが、良い意味で裏切られたと思います。確かにこの映画良かったです。

20世紀が終わる頃、ある裁判のニュースが世界を仰天させた。アメリカに暮らすマリア・アルトマン(82歳)が、オーストリア政府を訴えたのだ。
“オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られてきたクリムトの名画〈黄金のアデーレ〉を、「私に返してほしい」という驚きの要求だった。
伯母・アデーレの肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに略奪されたもので、正当な持ち主である自分のもとに返して欲しいというのが、彼女の主張だった。
共に立ち上がったのは、駆け出し弁護士のランディ。
対するオーストリア政府は、真っ向から反論。
大切なものすべてを奪われ、祖国を捨てたマリアが、クリムトの名画よりも本当に取り戻したかったものとは──?(公式HPより)

実話です。クリムトの名画を取り戻すまでを描いています。
実話だから取り戻すのが前提で、そこはネタバレとまでは言えないと思いますが、途中の展開を考えると副題の「名画の帰還」はやめて欲しかったと思います。
とにかくこの映画に限らず映画の邦題はひどいのが多いです。

私、クリムトの絵はあまり好きではありませんでした。
この「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」は、小さな写真で見たことは有りますが、金箔の中の生気の無い人物、そんな印象でした。
黄金趣味にも生気の無い人物にもどちらにも興味が無く、それが揃っている絵だと思ったのですから、実はよく見もしませんでした。
しかし、今回小さな写真ではなく映画館の大きなスクリーンでじっくり絵を見たので、この絵を再認識しました。

ごめんなさい、クリムト様。
とても美しかったです。
食わず嫌いでした。

さて、映画に戻りますが、こちらも食わず嫌いで終わるところでした。
「実話だから捻りようもなく、盛り上がりも少なく、せいぜい奪還するところがクライマックスなのだろう」程度の認識で映画を観に行きました。

主人公マリア・アルトマンと駆け出し弁護士ランドル・シェーンベルクの二人で、オーストリア政府を訴えるのです。ナチスに強奪された伯母の肖像画は、今やオーストリアの宝となっています。そう簡単に返却される訳がありません。

ここで引き込まれます。
「盛り上がりが少ない」なんて、とんでもありませんでした。

ほぼ絶望的な見通しの法廷劇と、ある場面で自分のルーツを感じて変わる弁護士ランディの成長物語と、回想のナチスからの歴史的逃走劇と、これらがすべて実話であり、この映画の魅力になっています。
この現在のシーンと過去のシーンが、とても自然で効果的に交錯します。
そしてこの過去のシーンが、絵を取り戻すマリアの動機に繋がります。

この映画ではマリアが名画を取り戻すまでを描いています。
しかし、マリアが取り戻したかったのは、実は有名で高価な名画そのものではなく、ナチスにより奪われたユダヤ民族の誇りであり、一族の幸せであり、そしてマリア本人がそこに存在した事実であったのだと思います。

マリアをヘレン・ミレンがとても魅力的に演じています。
「お前が言うな」と言われそうですが、この映画お勧めです。

そして、クリムトに詫びながらも、再度クリムトの作品を見たいと思いました。