2022年12月6日火曜日

彼は頑固で、すべてに本気だった。

仕事も、神輿担ぎも、中途半端には絶対しない。

彼が業界のリーダーをしていた頃は、他人の評判なんて気にしていなかった。自分が良いと思ったことは、全力で突っ走った。彼は私より攻撃的なポジションを取った。

彼に初めて出会ったのは、お互い40代前半の頃で、その時に「元早稲田のサッカー部だった」という話を聴いた。

あの何でも偉そうに話をする元日本代表監督の岡田武史氏をもっと偉そうに「おかだ」と呼び捨てにし、我がベガルタ仙台を初めてJ1に昇格させて仙台では清水大明神と崇められた清水秀彦氏を「やつ」と言い放った。

岡田氏は大学の後輩、清水氏は法政の同学年で、共に試合で戦っていた相手だったそうだ。

温泉で浴衣を着たとき、サッカ-で鍛えた脚を私にチラ見させながら「脚が太くて組めないんだよ」と呟いた、そんな微妙な彼の自慢話も笑顔とともに思い出す。

当然と言えば当然だが、彼は無類のサッカー好きだった。

彼は、日本代表がまだワールドカップに出場できない頃から、4年に1度世界中で開催されるワールドカップの大会を必ず観戦に行っていた。

日本代表が強くなった最近でこそワールドカップ観戦のために海外に行くサッカーファンが多くなったが、日本代表出場に関係なくずっと行っていたというのは、やはり普通じゃない。

今年のワールドカップは、日本代表が予選リーグでドイツを破り、スペインを破り、今朝未明に決勝トーナメントで前回準優勝したクロアチアと引き分けるという快挙を成し遂げた。クロアチアとはPK戦で負けたが、日本中が賞賛し歓喜している。

今年のワールドカップには彼にカタールまで連れて行ってもらうことになっていた。そして、この日本代表の快挙を目の前で一緒に観ることになったはずだった。

しかし、その約束も今年2月に叶わないことになってしまった。

あんなに楽しみにしていた彼は、この快挙をどこかで観ただろうか。

彼は風になったのだろうか。

あの頑固な彼には風は似合わない感じがするが、それでも軽やかな風になってカタールの空の上から、日本代表の偉業と、彼の大好きな世界中のサッカーチームの活躍を、まさに今、観ていることを強く祈りたい。