2012年5月1日火曜日

舟を編む

「舟を編む」三浦しをん 光文社 を読みました。本屋大賞だそうです。


私はこの本屋大賞の選び方には少し疑問を持っていました。過去も何故この本が選ばれたか分からないというものが、いくつか有りました。もちろん私の感性がひねくれているのかも知れませんが。
でもこの本は、編集者の友人も良いと言っていたので、期待しない程度で読んでみました。

これは、大手総合出版社の玄武書房の辞書編集部の15年に渡る辞書「大渡海」の編纂の物語です。そして、その編纂に関わる人間の関係と、それぞれの15年を描いています。

辞書編纂という誰も手を付けていない分野を舞台にしたことが、私にとってとても新鮮でした。辞書というものはこんな工程で作られるのかという知的興奮を得られました。またそれが、現代においても、極めて人間的で気の遠くなる人海戦術でしか到達できないという世界を確認できて、とても共感する思いでした。

「言葉の達人でありながら、周りの人とのコミュニケーションに言葉を使いこなせていない」馬締光也をはじめ、登場人物は皆どこか不器用で、愛すべきキャラクターです。その各々の15年の成長物語でもあります。
そして言葉に関する拘りに多くのエピソードを割いています。
「辞書は言葉の海を渡る舟だ」という想いを込めて、名付けられた「大渡海」という辞書、
これには三浦しをん自身の言葉に関する拘りも込められているのでしょう。

この地味なコツコツとしか進まない題材、ある意味ドラマチックにはしづらい題材を、ここまで魅力的に描いた三浦しをんにも敬意を払います。

どう考えても物語的に完成するに決まっていると思って読んでいって、まったくヒネリも無く、そのとおり「大渡海」が完成したにも関わらず、私は感動しました。
ヒネリも無く、人生をかけてまじめに長い間続けることが、どれだけ素晴らしいことなのか。

この共同作業に感情移入もできますし、とても共感できました。
そして、自分の世代で完成を見るかどうか分からない大きなプロジェクトに、人々がここまで自分を捧げていることに素直に感動しました。

個人的には、熱い思いだけで安易に書籍を書いて、読み返そうともしていない自分に、反省もしました。

興味が有ったら読んでも良い本だと思います。
そして、読み終われば、間違いなく、すぐに手元の辞書を見たくなるはずです。