2010年6月7日月曜日

法務局・地方法務局を国の機関として維持することについて

前ブログの「登記所はどこに行くのか その2」に書いた国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム」の中間報告に関して、日調連が書いた意見書がありますので、それを紹介します。

1.法務局・地方法務局を国の機関として維持することについて

登記事務は、国民の権利義務や社会経済活動に重要な役割を果たすものであり、今後とも国家が主体的に担う事務として、全国50カ所に適正に配置されている法務局・地方法務局を、現状のとおり国の機関として維持されることを要望いたします。 


1-1 不動産登記制度は、国民の貴重な財産である不動産に関する権利の保全及び取引の安全のため明治初期の制度創設以来今日まで国家の最重要施策の一つとして国家が主体的に運用してきたものであります。

(*旧不動産登記法は明治19年、我が国の法律第1号として制定された)

1-2 登記原因の発生から申請・審査・登記記録への記載を経て公開に至る諸手続き過程に於いては、不動産登記法のみならず、夥しい数に上る各種法令への精通が求められ、登記官が行う独任官としての判断の結果については審査請求や国家賠償の対象となる等、重い責任を負うものであります。

1-3 そういった法適用の実際に鑑みるとき、当該制度は国家が主体的に運用するべき制度であるところ、仮に各地域でそれぞれの自治体の独自施策として運用されることになれば、当該事務を担当する職員の研修を通じた均一な業務の確保を通じて実現される権利の保全、取引の安全に資すること等を通じた経済活動の円滑さの確保の面で危惧せざるをえません。

1-4 また、昭和63年以来進められてきた登記事務のコンピュータ化施策は今や全国の登記所であまねく完全実施されておりますが、更に、平成17年以来進められている登記申請のオンライン化に於いてはシステムとしては全国で対応できることとなりその利用も促進されています。

他方、オンラインによる登記事務の維持には、全国単位で必要とされるセキュリティの確保対応策をはじめ、これらシステムの維持には今後とも多くの費用が必要となること等を勘案するとき、各地域が独自に運用することによる脆弱化を強く懸念するところであります。

1-5 登記所の統廃合により、仮に近傍に登記所がない地域であっても、登記記録の入手が必要であれば、その際にこそ、これら高度にコンピューター化・オンライン化のプラス面を最大限に活用できることであることは自明であり、自治体等が不動産の異動に係る資料等を一時に大量に必要とする場合でも、行政機関内で特別の開示請求・取得のルートを構築すれば、不便等は解消されると考えております。

1-6 また、表示に関する登記に於いては、地目の認定、登記面積の確定や土地境界の認定、不動産登記法が定める地図の作成・維持は所有者等の権利の及ぶ範囲を特定し、固定資産税等の地方税のみならず不動産の取得・所有・使用・処分の各場面で幅広く適用される国税の対象としても重要である等、国家や自治体の財政基盤の基礎資料となること、高度情報化社会においてますますその重要性が認識され、地理空間情報の基盤データとなること、国土の適正な利活用における諸施策の基盤資料として活用される等、不動産が存する地域の利害等を越えた存在でもあります。

1-7 諸外国においても、登記は、司法の一部、あるいは国が直接関与する事務と位置付けられ、国が直轄で事務を行っていると仄聞しております。

わが国においても、登記事務は国が主体的に担う事務として、法令に精通した登記官による厳格な審査と迅速な事務処理の両面が確保されることで、不動産の流通や、不動産を担保とする金融活動が安心・安全に行われていると認識しています。

1-8 現在、地域主権戦略会議等において検討されている「国の出先機関の原則廃止」に係る論議では、独立して審査にあたる登記官の権限、あるいは、幅広い専門的知識で従事する登記部門の職員の執務実態さらには、専門知識の基礎となる判例・先例を含む法令等の研修・習得状況、さらには、不動産の現地調査の前提となる測量技術に関する技能養成などの仕組み、更にはオンラインシステム等についての視点が欠落された議論ではないかと危惧しているところであります。

1-9 また、平成18年に施行された改正不動産登記法により新設された筆界特定制度は土地の境界が不明である場合、所有者等の申請に基づき法務局または地方法務局に置かれた筆界特定登記官が弁護士や土地家屋調査士といった専門家(筆界調査委員)の意見を参考に土地の筆界を特定する制度でありますが、司法制度改革の中で議論されてきた裁判外紛争解決制度(ADR)の一種でもあり、まさしく準司法制度でもあります。

この筆界特定制度や法務省が進めている地図混乱地域における不動産登記法第14条の定める登記所備付地図の整備に就きましても、法務局・地方法務局が国家機関として主体的に実施していることへの信頼の上に成り立っているものでもあります。

1-10 以上に鑑みて、仮に法務局・地方法務局を地方自治体に移管するとされる政策が採られるとすると、適切な事務の遂行が確保されるための坦当職員の養成と極めて専門性の高い事務であるが故の特定の職員の恒常的な配置、コンピューターシステムについてはセキュリティの確保を含め、その維持管理に係る費用等、市町村が負担すべき事務経費の増大は避けられず、登記事務処理の適切・迅速さの確保の面に於いても危惧するものであり、それによって招来される混乱等、社会的損失は計り知れないものになるのではないかと懸念するところであります。

1-11 日本土地家屋調査士会連合会は、今後とも、国の責任において、登記事務の更なる効率化と国民への利便が図られるとともに、登記の信頼性が確保され、不動産に係る権利の保全や経済活動が、安全で、安心して行えるため、登記事務は、従来通り、法務局・地方法務局が国の機関として事務する体制を維持されるよう、強く要望いたします。