2016年7月1日金曜日

殿、利息でござる!

久しぶりに映画を観ました。

観たい映画が結構あったのに、その時期は映画に行く余裕がなく、今更ながら何を観ようかと思い、結局宮城県(大和町吉岡)の実話である「殿、利息でござる!」を観ました。


時代は江戸中期、舞台は仙台藩吉岡宿。
藩主は第七代藩主伊達重村の時代。

飢饉による年貢不足に加え、島津藩に対抗するための政治工作などで、伊達藩は慢性的な財政難。そのため藩内で重い年貢や労役を課すが、その結果住民の破産や夜逃げが相次いでいた。

吉岡宿でも同様であり、夜逃げ等で町そのものの存続も危うい状況であった。
吉岡で造り酒屋を営む穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は吉岡の行く末を案じ、町一番の知恵者である茶師菅原屋篤平治(瑛太)に相談した。
篤平治は、仙台藩に大金を貸し付けて利息を取り、住民に配り、貢や労役を軽減することを考える。十三郎とその仲間達は、私財を投げ打って町を守る為に行動を開始する。


歴史家磯田道史氏の「無私の日本人」の中の短編「穀田屋十三郎」を映画化したもの。
ちなみに磯田道史氏は、同じく映画化された「武士の家計簿」も書いた方で、テレビにも多く出演されている方だからご存じの方も多いでしょう。
磯田氏がこの「穀田屋十三郎」書くきっかけになった話も読んで欲しいです。
本の話WEB を見てください。

良い映画だったと思います。
阿部サダヲ主演であのポスターですから、よりコメディタッチの映画かと思いましたが、コメディの要素を抑えめに、人情話にほんの少しのコメディが程良くバランスされて、良かったです。

とにかく町のために私財を投げ打って、しかも名さえ残さないという決まりを作って、動く人々がいました。
完全なるヒエラルキーの中で、次々と上の壁を説得していく交渉事は、当時有り得ないことだったでしょうし、打ち首になることだって有ったでしょう。
しかし、これが結局進んでいったのは、やはり仲間の無私の心が、次々とそれらの壁だった人々の心を打ったからだと思います。

これが実話でなければ、こんな話を書くことを躊躇するかも知れません。
名も無き庶民が自分が破産するまでやって、それでも自分たちの手柄にしないという定めをつくったのです。こんな「無私の日本人達」が出てくるストーリーは、あまりにも「きれいごと」過ぎて「現実感がない」と批判されるかも知れません。
しかし、これは実話なのです。

実話の重みに、俳優達の演技の重みが加わり、後世に残すべき良い映画になりました。

阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平、山崎努ら本当に良い俳優が揃ったと思います。伊達重村のキャスティングとして、あの羽生結弦くんですし。

中でも伊達藩の財政担当萱場杢役の松田龍平がとても良かったですね。
みんな良い人の中で一人だけの憎まれ役です。
彼も分かっているのです。この訴えを通してやりたいのは他の人と同じはずです。
同じく心を打っているはずです。
しかし、彼はこの役人ヒエラルキーのラスボスです。
逼迫している財政を建て直して殿様を守る為に憎まれ役をやっているのです。

ここで殿様に羽生君を持ってきた意味が出るのでしょう。
あの穢れのない王子様キャラの顔を見ていると、萱場氏だけでなくても「我が殿をお守りしなければならない」と使命感を持つでしょうから。

また特筆すべきは山崎努の存在感ですね。このキャラはネタバレが絡むのでここだけにしますが。


たくさんの人に、この映画もしくは本を見て、日本人が社会をどう考えてきたかを確認して欲しいと思いました。

そして「見つからなければ他人の金も使う」という行動をした某知事などに観せてやりたい映画でした。