2015年12月13日日曜日

最初は簡単な建物登記から仕事を始めたいので

新人からの相談によくある内容です。

「最初は自信が無いので、建物に関する登記を中心に始めたい」
こんなご希望です。

新人だから簡単な仕事から着手したい気持ちはわかります。
また、建物に関する登記に特化して事務所経営ができれば、高価な測量機器を買う必要がありません。

気持ちは分かります。
でも、2つの意味で間違っていると思います。

まず1つ目です。
建物に関する登記は本当に簡単か?

確かに、土地に関する登記に比べれば、トラブルに巻き込まれる可能性はかなり少ないと思います。それでも建物に関する登記が簡単とは言えません。登記の方法によっては、訴訟に発展する隠れた難しい問題もあります。おそらくそれが見抜けない力量では、いずれお客様に迷惑をおかけすることになります。

また、訴訟リスクまでは無くても、現場に行けば建物以外の話題にもなります。
不動産利活用の話題も出るでしょう。建築についての話題も、近隣の地権者についての話題も、相続についての話題も、不動産税務についての話題もあると思います。
弁護士法違反や税理士法違反などをしなさいと言っているのではないのです。
土地家屋調査士に業務を依頼する方は、当然自分のことですから、結構勉強しているものです。
たとえ世間話であっても、その依頼者のレベルにも達していない人には登記を依頼する価値もないと判断されてしまうはずです。

現実的には、建物に関する登記だけに限りたくても、事前に土地の問題が整理できないと建物が建築できないということは多いですから、結局土地の問題に触ることも多いと思います。
勘違いしないでください。仕事ができるということは、書式や添付書類や図面の書き方を知っている程度ではないのです。

2つ目です。
新人は簡単な仕事から受託できるか?

会社員等の組織にいた頃は、簡単な仕事から与えられて、徐々に難しい仕事に移っていくような段階を踏んで成長したのだと思います。それに伴って昇級もしていたのでしょうね。
でも、専門家として依頼を受けて生きて行く場合の受託は、逆に難しい順になることも多いのです。

本当にリスクが無くて簡単な仕事があれば、先輩でもそんな仕事を受託したいと考えると思いませんか。それはそうでしょう。
だから、そんな仕事が有るとしても、新人にそんな仕事だけ廻ってくることはほぼ無いのです。

先輩も誰もやらない、または誰もやりたくない仕事。つまり面倒だったり、リスクがあったり、とにかく難しくて簡単には処理できそうもない仕事から受託することになると思ってください。

逆に、先輩が嫌がったその仕事を的確に処理できたら、それ以降そのお客様は絶対に裏切らないリピーターになります。

結局は、広範で深い能力を持つのが一番の営業なのです。

誰に何の仕事の依頼が来るかというのは、土地家屋調査士が決めることではないのです。
それは、お客様が決めるのです。
だから、新人だから建物に関する登記だけをやると決めても、敷地の相談や各種手続に対応できない人は結局切られます。

コネの無い私はとにかく勉強しました。実力を付けてきました。
そうやってお客様が増えてきました。

ちょっと考えてみましょう。
あなたが医者だとして、開業するときに
「最初は自信が無いので、風邪だけの診察を致します」
って病院を計画しますか?
誰もそんな病院行かないし、そもそも風邪を簡単な病気と断定しているだけで、その医者はダメですよね。

専門家に初心者マークは無いのです。
逆に有ると考えているのなら、その人は専門家ではないはずです。