仙台市で土地家屋調査士事務所を開業している鈴木修の個人ブログです。 2015年5月まで宮城会員や全国の土地家屋調査士の新人に向けて書いてきた「宮城県土地家屋調査士会の会長ブログ」を、そのまま個人ブログに引き継いだものです。 土地家屋調査士の制度や専門家としての事務所経営の考え方を書いてみたり、個人的な趣味や今考えていることについても書いていきます。興味のある分野だけ拾って読んでみてください。
2013年8月22日木曜日
平板測量のすすめ
本日他会の後輩土地家屋調査士に、過去の地積測量図についての質問を戴きました。
「事件の資料として使用する過去の地積測量図に記載されている筆界線の辺長について、小数点以下の桁が1桁のものと2桁のものをどう考えるか」という問題でした。
具体的にお話しを聞いてみると、有効数値だけの問題ではなさそうです。
どうも過去の測量についての知識が不足しているようでした。
過去の地図や測量図を読み解くには、現代の測量ノウハウを持っているだけでは不足です。その時代の制度と測量機器とその方法を知らなければ、理解できません。
それは古文書を読み解くときに、その時代の制度や文化、人々の生活、そして作者の立場と人となりを知らなければ、理解できないことと同じ事です。
以前にも、過去の平板測量時代に作成された測量図に疑問を持っている後輩から相談されたことがあります。
彼は、三角形の3辺の長さと底辺に対する高さの記載がされている測量図を前にして、「この3辺ならこの高さになる訳がない」として、「この図面が間違いである」と主張していました。今の座標計算で計算すれば、確かにその図面記載の高さは微妙に最終桁の数値が違います。
しかし、その測量図は間違いではありません。この後輩は当時の平板測量の仕組みとその方法を理解していないから、この疑問が生じたのです。
私が入会した頃には測量を平板測量で行っていた会員さんも半分程度いました。
その後、急速に時代は変わり、平板測量は無くなったので、今の会員さんで実際に平板測量をしたことが無い人も多くなりました。
そこで若い会員さんは平板等の昔の測量機器で測量した成果を「いい加減なもの」と判断することがあるようです。
しかし、当時の先輩方は、むしろ今の私達よりもまじめな世代です。当時の道具を駆使して、当時の最高の図面を作成していたはずです。
以前も書きましたが、私は司法修習生を預かって、地図の読み方を指導していた事があります。座学以外にも、地図や公図の読み方を理解してもらうために、現場に出て平板とトランシットを使って測量体験をしてもらったのです。
平板測量するときの彼らはとても嬉しそうに作業していました。
また同じ土地をトランシットで測量して関数電卓で座標計算もしてもらいました。
彼らは、実際に体験して測量を理解し図面の読み方を理解できたと思います。
その後、彼らは弁護士や裁判官になったのですが、おそらく事件に臨んで「昔の図面だから合わないものだ」というような安易な答えは出さないと思います。
後輩達に言いたいのです。
現代の土地家屋調査士が、最近数年の測量図だけ読めば済む仕事なら、何も言いません。
土地家屋調査士は、筆界特定や境界鑑定業務をわざわざ持ち出さなくても、日常業務でいつも古い図面を読み解かなければならない仕事です。
当然にその図面ができた頃の様々な研究もしなければなりません。その一環として平板測量や地租改正の頃の十字法等の測量も一度体験すべきです。
また、過去の勉強をしていない人に限って、最先端の勉強もしていないようです。
繰り返して言います。
過去の測量はいい加減な測量ではありません。
一生懸命測量してみて、その道具の持っている精度の限界を体験すればわかります。
そこの研究をしないで、過去の資料に向かい合うことの方が、とても「いい加減」と思います。