2013年8月3日土曜日

ADRセンターにおける土地家屋調査士の役割

8月1日に「みやぎ境界紛争解決支援センター」の運営委員会が開催されました。
センター長も替わり委員も若干替わりましたので、具体的な事例を基にこれからのセンターの運営について意見を交換しました。
センターに関わるすべての人の考え方を統一するために、様々な議論をしたのですが、会議では前向きな意見が出て、私にとっても、とても嬉しい会議でした。

さて、ここでADRセンターにおける土地家屋調査士の役割についての考え方を少し整理させてください。若干勘違いしている人が多いような気がしていますので。

センターに相談に来る方々の問題は、確かに境界そのもののトラブルも有りますが、むしろ「境界に起因する・・」または「境界に関連する・・」問題で、最終目的は「境界がどこか」とは違う問題かもしれません。
私達土地家屋調査士は、常に境界(筆界)を捜す仕事をしているから、センターでもどんな問題が来ても、まず筆界を捜すスイッチが入ることが有るようです。
これが場合によっては、問題解決の妨げになることがあります。
筆界を探すのが目的なら、筆界特定制度を利用すれば良いのです。

ADRセンターは話し合いの場です。
隣地問題の一番難しいことは「裁判で勝っても負けても隣に住む」ということです。
だから勝ち負けではなく、話し合いが望ましいのです。

そして、筆界は話し合いでは決定できないものです。これは判例を持ち出す必要もないくらい明白なものです。話し合いできるものは、所有権や利用権の範囲です。

調停は「何が正しかったかではなくて、これからどうするか」を話し合うものです。

たとえばADRセンターに相談に来る人は、壊れた擁壁をどうするかとか、通行権をどうするかとか、水利権をどうするかとかが最終目的かも知れません。
筆界は後でも良いのです。
話し合いでお互いがどうすべきかを決めて、せっかく決まった事項に法的安定性を持たせるために登記すべきであることを示し、その過程で事務的に筆界を確認することで良いはずです。

もちろん途中で筆界を確認することで話し合いがスムーズに進むケースもあるでしょう。それはケースバイケースで判断すればよろしいと思います。
私が言いたいことは、先に筆界に拘泥してしまうと「誰が良い、悪い」という議論に直結しがちで、まとまるものもまとまらなくなるということです。

私達は境界に関するADRセンターを担当すべき唯一の専門家です。
それは「境界に関する知識や技術を一番持っている専門家であるから」という理由は当然ですが、むしろ毎日の境界立会の経験の積み重ねにより「境界に関する地権者の思いを一番理解できるから」という理由だと思っています。
自分が主導権を取って筆界を探し始める前に、静かに両者の境界に関する発言を聞けば、「この人はこんな言葉を発しているけれど、本当に求めているのはこんなことだ」ということが、理解できるはずです。
この能力がADRセンターでとても大事な能力と考えています。