2022年7月9日土曜日

開業するにあたって事務所を買うこと

Yさんからこんなメールが入りました。

「こんにちは!実は今独立後の事務所とするための建物建築を考えております。

土地が先ほど決まりました。」


Yさんは試験に合格して、補助者として実務を勉強しはじめて1か月です。

積極的でやる気のある方です。早めに独立をする意思は伺っています。


Yさん、ちょっと待ってください。土地はもう契約したのですか。心配です。

土地家屋調査士として開業することは一国一城の主になることです。「開業にあたり、自分の城を持つこと」は私も夢でした。

だからYさんの気持ちは良く分かります。

しかし、事務所はかなりコストのかかるものですから慎重に決めて欲しいのです。

今の時代は、あえて不動産を持たないという考え方の大企業も多いです。

しばらく賃貸ではいけませんか。


事務所を経営するときには、収入は低めに、支出は多めに計算をしておかなければなりません。それなのに、収入の見通しもまだしっかり立たないうちに、支払いだけ決めてしまうことはお勧めしません。

Yさんに有力なコネがあることは伺っています。それによって仕事がたくさん来そうだということも伺っています。

しかし、私達の業務は、資格試験の穴埋めの手続きのような単純な部分だけではないのです。

世の中の経済活動の中で取引が行われ、権利変動が発生し、それに伴い表題部の手続きが発生します。

補助者としては手続きを担当しているかも知れませんが、それ以前のもっとも大事な部分の把握は事務所の土地家屋調査士がやっているはずです。

土地も建物も金額も大きいので、一歩間違えば訴訟になる案件を今までたくさん見てきています。

建物登記も甘く見てはいけません。簡単に見えるからこそ落とし穴があります。事件に巻き込まれた後輩達から泣きつかれたことも何回かあります。

Yさんに発注してくれるのは関係業界の方々だから、そんなことはよく理解しているはずです。ということは、Yさんが持っているというコネは、先輩達と対等な実力が付いて、絶対に間違いのない業務をこなせるとその関係業界の方々が認めてくれてはじめて活かせるものなのです。

Yさんの実力がどれくらいなのか見たことがないのに失礼なことを書いているかも知れませんが、「補助者1カ月」とか「コネがあるから仕事が来るはず」のお話を伺うと、やはり心配になります。


また、上記は私の取り越し苦労であって、Yさんが開業してからは仕事が山ほど来たとしましょう。
そうなれば補助者を雇う必要が出てきますし、その後補助者を増やしたり、法人を作ってみたくなったりするでしょう。

だから、仕事が増えれば増えたなりに、事務所に様々な新しいニーズが出てくる可能性があるのです。

先に器を決めてしまうとこれらの変化に対応がしにくくなります。そのときは事務所を売れば良いと考えているかも知れませんが、よほどの街中じゃなければ事務所物件は売れません。

そういう意味から考えても、今から事務所を固定しないで、まずは賃貸で始めて様子を見て、経営の見通しが安定してきてから器を用意しても良いのではないでしょうか。