2022年6月18日土曜日

専門家として業務受託に必要なこと

土地家屋調査士の資格試験に合格した新人たちの指導を長年しておりますが、合格者から開業に向けてよく聞く発言が「測量さえできれば」などというものです。

あの試験に合格しただけで「ほかに測量ができれば土地家屋調査士として生きていくことができる」と思っているとしたらとても危険です。もう少し世の中を知ってください。

今日お聞きしたのですが、以下はある土地家屋調査士事務所に実際に来た質問だそうです。


質問①

国土調査は済んだけど登記所未送付の土地を買いたいが、この土地は分筆登記できるのか?また、隣接地の一軒の境界承諾書がないんですが。

質問②

別件ですが、これも国土調査が済んでるけど登記所未送付の土地の2筆が、所有者が同一のため2筆の外周は確定しているが、中は〇〇番+〇〇番表記されてるいる。この土地を筆界解消と地積更正登記したい。この土地を買うにあたって測量代はどちらもちになるかって質問です。取引形態は公簿売買とのことです。


土地家屋調査士試験に合格しただけでは、この質問に正確に答えるのは難しいでしょうね。この質問は論点が多いのです。論点をひとつひとつ分解して全部理解することにより、明確に答えることができるようになります。

一応、この質問に含まれる論点を分解すれば

質問①

1.国土調査と筆界の関係は?

2.国土調査とその成果の登記所送付とは?

3.分筆登記可否の要件は?

4.境界承諾書とは?

5.登記申請と境界承諾書の関係は?

6.国土調査や他人の境界承諾書があれば土地家屋調査士の調査が省略できるのか?

質問②

1.国土調査と筆界の関係は?

2.国土調査とその成果の登記所送付とは?

3.国土調査における筆界未定とは?

4.国土調査があれば土地家屋調査士の調査が省略できるのか?

5.筆界未定の解消の具体的方法(手続き)は?

6.公簿売買とは?

7.公簿売買の売主の責任は?

8.売買の際の測量費の負担は売主と買主のどちらが負担するか決まっているのか?

9.8の負担者が決まっているのなら、その根拠は何によって決まっているのか?

こちらもこんなところでしょうか。


世の中の不動産取引の前提として土地家屋調査士の仕事が発生します。これらは試験範囲としての測量と不動産登記法や民法などの法律、それだけを学んでいても答えられません。

もちろん経験則が積み重なっても、根拠を持って正確に答えられません。

これらの問いで皆さんがひとつ学ぶことがあるとすれば、開業してただ事務所で待っていても単純に「分筆登記をお願いします」という依頼は来ないということです。
受託してから調べるつもりと思っていても、実際には何も知らないとそもそも受託ができないことになります。

持ち込まれるあらゆる質問に正確に答えることができると、営業不要の土地家屋調査士になります。

専門分野として「広く浅く」を狙っても結局鳴かず飛ばずの土地家屋調査士になりますので、まずは「狭くても深く」から狙うべきだと思います。

そうすれば、必ず生きていく方法が見えてきます。

そうでないと「様々な知識を教えてくれる土地家屋調査士」という専門家ではなく「単なる作業員」になってしまいます。

試験合格者は、もう一度方向性を整理してみてください。

応援しています。