ただし、以前から書いているように、私の考える保守はその場にしがみついて動かないことではありません。
世の中は急速に変化をしています。だからただ留まろうと思うだけでは流されてしまいます。言い換えれば「座して死を待つ」ことになると考えています。時代の流れを敏感に察知して、その流れに沿って、またはその流れを越えて精一杯動き続けるからこそ、その位置を保持できると信じています。
ですから皆で動かなければなりません。そう信じて会長を務めてきました。
でも組織にはいろいろな人がいます。
皆で揃って動くことは、なかなか難しいことです。
そんな組織を動かす方法として3つの方法があると思っています。そして私はそれぞれを実行してきました。
トップダウン(Top-down)
組織のトップから法律や規則等により伝達、指示、指導することにより、組織の構成員を動かしていく方法です。規則等を使うので、変化の効果は早く出るけれど、それだけでは必ず落ちこぼれや反発者が出ます。構成員の末端の部分まで気遣いをしながら浸透させる努力が必要です。
ボトムアップ(Bottom-up)
トップダウンで声が届かない層まで動かすために、むしろ組織の下層に着目して、その下層にいる構成員を指導してその意識を変えて、それらの構成員が伸びていくことにより組織全体を変化させる方法です。
組織全体の変化は意識の変わった構成員が成長することを待たなければならず、また組織の方向性が曲がったりすると、この構成員達が伸びる前に潰される虞もあります。ボトムアップは組織が正常に伸びている前提ですので、組織全体に目を配らなければなりません。
デファクトスタンダード(De Factoーstandard)
規則や教育でも、まったく動かない人達がいる場合、ある程度の人数で業務などの「事実上の標準」を作ってしまうことです。
例えば「測量は公共座標で」「調査報告書は書きましょう」「納品はこうしましょう」等々を指導しても、「その手間賃は誰からもらうんだ?」と言い始める人が必ずいます。お客様の為でもなく、業界の将来の為でもなく、今自分が面倒なだけで発言する人です。
でも周りのグループで明らかに違う成果を納品始めれば、それが業界の事実上の標準となり、お客様が(市場が)そのような成果を求めるようになります。
規則には従わない人も市場には従うようになります。
これは意外と効果が出ます。
これらの3つの方法は、単独で動かすのではなく、3つを組み合わせた相乗効果が有効です。
私にとってトップダウンは、昔は日調連理事として、近年は宮城会会長としてやってきたことです。
ボトムアップは、個人でライフワークのようにやってきた新人教育などです。
そして、宮城青調会で意識的にやってきたのが、デファクトスタンダードを作ることでした。
私達の当時の測量図(いわゆる確定図)は周りの人達より手間をかけて描き込んだ図面でした。今でこそ当たり前に普及した境界確定図ですが、CADの無い頃でしたからとても面倒でした。おそらく規則でこのような図面を描きなさいと決めても、それだけでは普及は無理だったでしょう。しかし、情報量が多くてきれいな図面はお客様が選びます。お客様が求めるようになれば、結局皆描き始めます。
これがデファクトスタンダードにより、宮城の図面水準を上げた効果です。
保守とは動かないことではなく、むしろ積極的にアンテナを張って考えて動くことです。
土地家屋調査士がどんな世の中になっても土地家屋調査士でいるために、皆でもう一度考えて動いてみましょう。