2015年7月19日日曜日

少女は自転車にのって

映画館が無く、しかも女性が人権差別されている中でサウジアラビアで、女性監督ハイファ・アル=マンスールによって撮影されたサウジ初めての長編映画の「少女は自転車にのって」を観ました。一昨年末公開の映画です。



10歳のおてんば少女ワジダは男の子の友達アブダラと自転車競走がしたいのに、お母さんは男の子と遊ぶことも、自転車を買うことにもいい顔をしない。ワジダの住む世界には、女の子がしてはいけないことが沢山あるのだ。ある日、綺麗な緑色の自転車を見て、どうしても欲しくなったワジダは、自分でお金を貯めていつか手に入れることを誓う。
手作りのミサンガを学校でこっそり売ったり、上級生の密会の橋渡しのアルバイトをしたり・・・それでも自転車代の800リヤルには程遠い。そんな時、学校でコーランの暗誦コンテストが行わることになった。優勝賞金は1000リヤル!大の苦手のコーランだったが、ワジダは迷わず立候補、必死にコーランを覚えて練習を重ねるのだが・・・。
(公式HPより)


ボーイフレンドと競争する自転車が欲しい、そんな10歳の世界中どこにもいる女の子。普段リーバイスのジーンズとコンバースのバッシュを履いています。
自転車を買うために、手作りのミサンガを売ったり上級生のラブレターを密かに渡すアルバイトをします。アンテナを張ってアメリカンポップスなどを受信して、ミックステープを作り売ったりします。可愛いアルバイトです。
でも彼女は世界でも特別の国に住んでいます。

宗教が法律となり、コーランによるイスラム法で統治されている国です。女性は結婚、就職、旅行など全ての行為について「男性保護者」の許可が必要な国です。
女性は10歳くらいから、親兄弟や夫以外の男性がいる場所では、アバーヤと呼ばれる黒い布で全身を覆い、ヒジャブという黒いスカーフで髪を隠さなければならない国です。
そして女性は自動車運転も禁止、結婚前に男性と話することすら禁止、そして男性は4人まで妻を持てる国です。

自由恋愛ができず、ラブレターを渡したことが見つかれば、名誉殺人の名で殺される可能性すらあるとのこと。この映画ではラブレターを出した子は、強制的に他に嫁に出されたのです。この国は女性は10歳から結婚が可能で、年の離れた夫の何人目かの妻になることがあるようです。

そしてワジダのように女の子が自転車に乗りたいということ自体が、はしたないことです。この国はアメリカンポッポスも禁止、だからワジダのアルバイトは可愛いアルバイトどころか、非合法のアルバイトになるのです。

実際この映画を女性監督が撮ったこと自体が凄いことです。
監督とはいえ男性俳優に直接指示ができない国で、監督は車中に身を隠し、無線で指示を出しながら作ったという映画だそうです。

でも辛く重い映画ではありません。
映画では直接的な政治的メッセージは避けています。

ワジダはいつも前向きです。
納得できない校則の中で生活する他国の女の子のように、納得できないその国の制度の中でたくましく生活する女の子としての描き方で、あくまでも可愛い女の子の映画になっています。
先生に長いアバーヤの下のお気に入りのコンバースを見られ、皆と同じ黒い靴を履いてくるように言われるとコンバースを黒く塗り始める子です。
家系樹に男性の名前しか無いことを見て自分の名前を貼り付ける子です。
信仰のためではなく自転車を買うために、大の苦手なコーランの暗唱大会に出ると決意し練習を始める子です。

ワジダの母親はサウジの女性の現状を表しているでしょう。
現代のサウジ女性は他国の制度の情報を十分知りながらも、この国の制度を受け入れて生きていかなければならないのです。
夫依存の人生なのに、自分が男の子を産めないことにより夫が第二夫人と結婚することを仕方ないと受け入れながらも、ワジダの未来を願います。

馴染みのないサウジアラビアの普通の生活が垣間見られます。
そして、その中でたくましく生きるワジダ。
それだけでも映画として観る価値があります。
ラストシーンは明るい未来を暗示するシーンです。

観た後は、少しモヤモヤは残るけれど気持ち良さも残ります。
年齢、性別、バックボーンが違う様々な人に観て欲しい映画だと思います。

もちろん、映画でもやもやした違和感がある部分を調べながら再度観ると、サウジアラビアの現状とそこに暮らす人々の感性が更に理解できると思います。